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学校教師による生徒への性的行為・性暴力被害アンケート

(2020年7月9日〜7月31日実施) の分析
ー学校教師による児童生徒への性暴力防止に向けてー

 


*この分析では、学校教師による性暴力の実態とその防止を念頭に分析します。なお、学校や年齢別で回答にも特徴や違いがありますが、より詳細な分析は別の機会に譲ります。
*このアンケートの回答149件のうち教員が確実に退職したケースはわずか2件、しかも懲戒処分かどうかは不明でした。したがって、文科省の例年の懲戒処分の調査では明らかにならない、学校教師の性暴力の実態調査と言えます。

各質問の構成:
質問 (1)〜(6)
性暴力発生時の加害教師と児童生徒の属性・関係性
質問 (7)〜(11)
性暴力の発生状況(場所、時間、性暴力に至る経緯など)
質問 (12)〜(15)
最初の被害時の被害認識・開示の状況、開示に対する周囲の反応
質問 (16) (17)
同じ加害教師からの複数の被害児童生徒の有無など
質問(18)〜(20)
教師による性暴力の頻度・継続の状況
質問 (21)
加害教師に被害児童生徒が拒否や抵抗を示す状況
質問 (22) (23)
周囲の人間の気づき・気づいた時の対応の状況
質問 (24)〜(29)
最初の被害時に被害と認識ができなかった人の被害認識・開示の時期と状況
質問 (30) (31)
被害による、被害後から現在に至るまでの生活への影響
質問 (32)〜(35)
回答者の現在の属性

(1)学校教師による性暴力は「体の接触」が最も多く、多岐に渡る。
体の接触、性的な発言、性的な行為などをはじめとして、性暴力の内容は多岐に渡る。

回答の中には、「ドライブに連れて行かれた」「飲み物を勝手に飲まれた」「部屋の画像を送るように言われた」など、直接自分の体に接触することではなくとも、教師と生徒という指導の立場を利用して、不要に自分の心身の領域に入られることで、児童生徒は不快感や身の危険を感じている(質問(1)(10)など)。更に中学生・高校生では恋愛を口実とした性暴力が発生し、交際という口実で長期化するため深刻である。
性暴力とはプライベートゾーンを触られたり性的な発言をされることだけではなく、必要以上に相手との関係に踏み入る行為、心身の安全の境界線を侵害することであると、児童生徒以上に教師が認識する必要がある。


(2)9〜17歳、小学校中学年から高校までの10代の被害が多い。
回答者は小学校教師からの被害回答が最多となっているが、高校までを学年あたりで割ると、各学年およそ10人前後。


(3)学校内での日常生活での性暴力が蔓延。
・授業中での被害が31.5%で最多。
・教室など学校内での被害が合計80.2%。
・性暴力が密室で起こるとは限らない。大勢の児童生徒が一斉に性暴力にあうことがある。
授業、生活指導などのの延長で、日常生活の中で性暴力が起こっており、いつの間にか被害にあっている、気づきにくいケースが半数を超えていた(質問(8))。授業中の被害例としては、水泳の指導で女子全員が足を触られる、性的な言葉を言わされる、などというものがあった。性暴力のきっかけや継続において、脅迫や暴力は1割未満であり(質問(8)(19))、大半の性暴力は教師という信頼を利用され、警戒心が持たせないばかりか、教師の言うことが正しいとさえ思い込ませるので、非常に悪質である。教員という立場が性暴力に利用されている。


(4)たとえ被害者が複数いても、児童生徒のみで被害を訴えることは困難。
大人からの積極的な介入が必要。
質問(12)〜(15)、(21)、(24)〜(29)の回答から、性暴力は精神的に大きなダメージがある暴力であり、特に未成年者が、信頼する教員からの性暴力を性暴力と認識、さらに開示・相談することが困難であることがわかる。学校教師への信頼によって被害と認識できなかった理由は全体の38.7%となる(質問(28)の回答)。
また、質問(17)のように、自分以外に他の被害者、時にはクラス全体に被害者がいても、未成年が大人の教員相手に一緒に解決に向けて行動することはほぼできない。性教育などで未成年者の自衛を促すよりも、子どもの意思を尊重しつつ大人による介入による解決が必要である。


(5)児童生徒が被害を訴えても、教師、学校、大人が対応していない。
最多の対応は「見て見ぬふり」。他の教師による反応の9割以上が解決に消極的。
児童生徒が他の教師に相談した時の最多の対応が「まともに取り合ってもらえなかった」(27.0%、質問(14))、他の教師が、学校内の性暴力に気づいた時の対応として最多だったのは、「見て見ぬふり」(63.4%、質問(22))であった。他の教師による、解決に消極的または児童生徒に否定的な対応は、気づいた反応の9割を超えており、安全配慮義務違反が当然のこととなっており、極めて深刻である。

また、保護者や同級生などに関しても「見て見ぬふり」(35.2%、質問(23))が最多であった。
児童生徒がSOSを出しても、大人が適切に対応しなければ、救済がないばかりか、被害が深刻化する。大人が性暴力が何か、性暴力に遭遇した時の対処を正しく知るべきである。


(6)教師の性暴力が終わるのは、卒業や進級などの自然消滅(53.8%)が最多。
性暴力の被害は、1回のみではなく複数回数に渡るものが多く、10年近い期間など卒業後も被害にあうようなかなり長期間の被害もあった(質問(18)(19))。未成年者にとって被害を認識し訴えることが困難であり、周りの教師や大人が対応しない現状に加えて、卒業や進級を前提とした学校では、例え不快感を感じていたとしても、「あと数ヶ月で先生変わるから」などと我慢する、または我慢を強いる可能性も想像される。いずれにせよ、積極的な解決を目指す周囲の行動がほとんど見られないことは極めて深刻である(質問(20))。


(7)大人が介入して教師の性暴力をやめさせたのは、わずか5件。退職はわずか2件。大人が介入して教師の性暴力をやめさせたのはわずか5件、その内訳は教師の異動1件、退職2件、不明2件(質問(20)。内訳はこの結果公表では省略)。退職は懲戒処分か依願退職か不明。
仮に、これらの2件が懲戒処分と想定した場合、149件のうちわずか2件が懲戒処分、つまり75件に1件しか懲戒処分されないことになる。
2018年度の公立学校の教師のわいせつ行為の懲戒処分件数は282件だったので、暗数を含めた公立学校の年間当たりの性暴力は、282 X 75 =21,150 件と仮定できる。しかも、このアンケートの回答者は、一定期間募集したインターネットのアンケートに回答したごく限られた人々なので、実際の暗数はこれよりもかなり高いと想像できる。


(8)教師の性暴力を止めたり通報するなどの防止対策が学校で取られていない。学校や教育委員会に被害を申し入れても、免職や免許失効以前にそもそも教師が懲戒処分されないことが多く、実質的な問題解決がされていない。
児童生徒が教師の性暴力被害に声をあげられないどころか、声をあげても、教師や大人による解決に消極的な対応が大半を占めている。この現状では、被害を止めることもままならず、まして教師の懲戒処分は困難である。「学校がまともに取り合わなかった」(質問(14))、「教育委員会に隠蔽された」という回答がある一方(質問(23))、教育委員会が積極的に調査や防止に取り組むことを示唆する回答はなかった。
文部科学省の教員の性暴力の対策の一つとして、一律懲戒免職の処分や教員免許再交付の厳格化が挙げられているが、このアンケートを日本の現状の縮図と捉えるならば、147件のうち2件で教員免許が失効されても、残り147件がそのままでは、教員の性暴力は蔓延したままである。
学校での性暴力の本格的な防止対策と、懲戒処分の適切な調査や判断がされる状態が、厳罰化以上に必要である。

2020年12月10日

石田 郁子

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